第5章 されど女は強い ③ くノ一忍法帖 096P
く、また、格別深い関係になりたいとも思わなかった。
しかも、男は金も地位もあり、女遊びをする気なら、いくらでも相手が見つかるというもの。
ところが、そんなある夜、酔い醒(ざ)ましに二人で犀川の河原を歩いていたとき、女の方から、ぎこちなく腕を組んできて、「ダメよ、今夜は帰さないから」と囁(ささや)いたのだ。
ここまで女に言われれば、男冥利(みょうり)に尽きるというもの、と思わなくては罰(ばち)が当たるというものだ。
そろそろ妻との交わりがマンネリ化していたため、Y男は、その夜は新鮮さを感じながら満足した。しかし、女は家庭のことを詮索(せんさく)するような余分な話を一切出さない。
「口が堅そうであるし、控えめで遠慮がちな性格は、なるほど描いていたとおりの金沢の女だ」
といつのまにか、男は便利な女だなどと単純にうぬぼれながら、それからもズルズルと関係を続けていた。
ところが、女はすべてを感情的流れにゆだねなくても、抱かれることができるのである。
続く・・・
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