第5章 されど女は強い ② 女はしたたか 090P
のあった、故郷の生活であり、なつかしさのあまり、
♪りんごのふるさとは、北国の果て
うらうらと山肌に、抱かれて夢を見た……
と、あのひばりさんの歌をうたって涙ぐむこともある。
ところで、S子さんは美人でもなければ、不美人でもなく、ごくありふれた容貌の女性である。
そんな、S子さんの店に、毎日のように立ち寄ってくれるT男(30歳)がいた。
きちんとスーツを着こなし、いかにも実直そうな、銀行に勤めるサラリーマンで、夕食弁当を買っていくのをみると単身自活しているのであろうか……。
その姿に心の空白と寂しさを癒す、いわば片思いであったが、いつの間にかS子さんの目が彼の姿を待ち焦がれるようになった。
しかし、店内では人目があって、余分な話しかけはできないし、相手が年下であることや、自分が離婚で子持ちというコンプレックスで、ついついおじけづいてしまう。
せめて、できることといえば、「今日も一日ご苦労さま」と愛想よく言葉をかけ、エールを送り続けることぐらいである。
それでも、久しく中断されていた恋心という
続く・・・
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