第3章 移り行く女性像 ⑥ 戦後混乱期 050P
闇の買い出し客でごったがえす、終戦直後の金沢駅のホームに、どこから流れてくるのだろうか、途切れ途切れの音声で、
♪赤いりんごに、くちびる寄せて
黙って見つめる、青い空……
と、女性歌手の軽快なメロディーが聞こえる。
その駅の出口広場で、墨で顔を汚した貧しい姿の少年が、靴磨きをしている。
またその隣には、同じあどけない年頃の少女が、風の寒さと空腹に耐えながら、花を抱いて、通りすがりの男性を呼び止め、「お父さん買ってよ、お願い」とせがんでいるが、みんなそっぽを向いていく。
配給、疎開、闇市……、そんな風景が、全国いたるところに見られたのである。
ちょうどその頃、舞鶴の波止場は、大陸からの引き揚げ者でごったがえしていた。
故国の地を踏み締めて、互いに生きて帰れた無事を、あるいは迎える者との喜びを確かめるように抱き合い、手を握り合って涙するもの、そんな光景である。
まだ生きて帰国できたものは幸福というべきか……。
外地から抱いたきた遺骨であったり、ソ連軍による攻撃で厳寒のシベリアで捕虜になった戦友、
続く・・・