第5章 されど女は強い ⑤ 結婚に定年はない 110P
われる」と突き詰めていえば、この二つが反対理由であるのだ。
そこで、二人は「急がず、慌てず」、愛の強さと真剣さを説きながら、最後のとどめは、ハツさんが母の威厳をこめた声で、子供たちを「借りものの世評で、親に苦言をするな。自分らも老後に対応していく自信があるのか」と叱責(しっせき)したのである。
それが転機となって、老親を一人ほうって置くよりも、子供らにも安心なこと、特に息子の嫁は、夫以上に高齢者との同居や介護の不安を実感しているのだろうか、好意的に賛成してくれた。
こうして紆余(うよ)曲折があったものの、二人は晴れて入籍することになり、遠慮していた結婚式も双方の子供らが挙げてくれた。
今、ハツさんの屋敷から、三味の音色に合わせて、
♪ハァー、忘れしゃんすな、山中道を
東や松山、西や薬師……
と女性のハイトーンの唸り声が流れてくる。
その歌と三味の間合いが、素人の耳でもテンポ外れを聞き取れるものの、それが妙になごやかで、楽しく聞こえてくるから不思議である。
続く・・・
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