第5章 されど女は強い ⑤ 結婚に定年はない 108P
が、「いい年をして世間体が悪い」などと強調するので、やっぱり尻込みしてしまう。
「みんな、いずれ自分も年をとることを忘れていやしませんか」と叫びたくもなるというものだ。
田中ハツさん(仮名)は、72歳であるが、かつては婦人活動の場で進歩的な意見を活発に主張する気骨の女性であった。
しかし、地方名士であった伴りょを亡くしてからというもの、潮が引くように人の出入りがなくなり、息子二人も県外に所帯を持って、年に一度帰郷するかどうかであるため、孤独に耐えながら、往時の気丈夫がすっかり影をひそめてしまった。
「もう家族は当てにならない、このままでは体の健康も失い、心の病に陥って、やがてはアルツハイマー病などのボロ雑巾になってしまう」
と悶々(もんもん)と考え、特に、木枯らし舞う冬の夜などは、まるで死に神が唸(うな)り声を上げて迎えにくるようで、
「この先、ひっそり息を引きとって、発見されなかったらどうしよう」
とこれまで考えもしなかった「孤独死」まで思い浮かんで、
続く・・・
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