第5章 されど女は強い ① 絶望から立ち上がる 085P
けなければならないのか。いったい自分が何をしたというのだ」と目を閉じるたびに、そんなことが浮かんできて、もう数日間はろくろく睡眠をとっていない。
それに追い討ちをかけるかのように、「ハイミスが結婚にあせって、嫉妬の妄執(もうしゅう)に」と、同僚たちの嘲笑(ちょうしょう)が幻聴のように耳に響いてくる。
男と女の関係は、歯車がいったん狂い出すと、すべて逆に回り出すものである。
正常な意思判断を失ったY子さんの足が、追い詰められるようにして、夜明けとともにヤセの断崖の上に立っていた。その心の中は、闇に閉ざされて、荒々しい潮騒(しおさい)の底に吸い込まれていくようである。
ところが、不思議にも、ふと眼下に眺めたあの松の方向から、「強く生きろ、強く生きろ!」と声がしてくる。
錯覚か、幻聴か?いや確かに、耳をすますと囁(ささや)いてくるのは、あの松の声だ……。
しかも、その声は暗闇の心の扉を開けて、中に光明を差し込んでくるようでもあった。徐々に、Y子さんは我に返ってきた。
そういえば、聞いたことがある、「人はみな自然と共に生き、生かされてい
続く・・・
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