書籍紹介

第5章 されど女は強い ① 絶望から立ち上がる 082P

能登外浦の巌門から関野鼻にかけての、岩礁の一帯を能登金剛と呼び、剣ケ峰で知られる朝鮮の金剛山が由来という。

昭和30年代の半ば頃、推理作家松本清張が、ここの”ヤセの断崖”を舞台に「ゼロの焦点」を書き上げ、それが映画やテレビに放映されると、そのミステリ一的要素が、この海の冬の顔である「なまり色の空に、荒々しい潮騒」のイメージとマッチして、またたく間に観光地として注目をあびるようになった。

この日も、同じような気候で、シベリアから吹きつける寒風が肌を刺す。

しかし、そそり立つ絶壁の岩の割れ目に自生する、クロ松は凍り付くような波しぶきに耐えながら、四季を通じて濃い緑を失うことはない。

人目を引くために花を咲かせることも、媚びて四季に葉色を変えることもなく、厳しい自然条件や痩せた土地に、しっかりと根付いて生きているのである。

その松を先程まで、切り立った断崖の上に立って、眼下に眺めていたY子さん(33歳)は男に裏切られ、ボロボロに傷ついていた。

「もう、二度とこの海を見ることがないかも」と眩きながら。

会社の同僚らが、ハイミスと陰でささやい

続く・・・

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