第3章 移り行く女性像 ⑤ 戦中期 049P
立つと、何が幸いになるかわからない」
こうして、運よく無事生きて帰国できたポンド・ガールは、死線をさまよって体験した過去を、静かに癒(いや)しながら口を閉ざし、仏縁に幽居するという、そんなタイプでなかったようだ。
「気違いといわれようと、めくら蛇といわれようと、とにかく前進あるのみ」
と生き抜いてきた信念は、再びかま首を持ち上げるようにして、
「こうなったらただでは死ねない。この目を通じて見、この身でじかに体験した苦闘の数々を後世の戒めに……、ほんとうのご奉公はこれからだ……」
と老いた体に鞭(むち)打つようにして、今度は平和再建の人柱となろうと誓ったのである。時代が移り変わった。が、歴史は時には都合の悪いこととし、事実であっても、永久に表に出てこないことがある。しかし、こうした事実を見落とし、あるいは例外と見る限り、いつまでもコピーの北陸の女性像から抜け切ることができないと思うのである。
続く・・・