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アクタス3月号 女探偵は見た 人生こころ模様 第3回

子を思う親心

アクタス 2014.3月号

「また、抱きたいよ。今度、時間いつ取れる?」
「ねえ、キスだけじゃだめ?」
「うーん…でも寂しい」
「わかったよ、今週の土曜日に女友達にアリバイ工作を頼んで時間を作るね」
これは、「ライン」を通じて知り合った男女のやり取りの一コマです。

トラブルが多発

ラインを知っている人は多いと思いますが、簡単に説明すると、最近流行のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の一つで、人と人のつながりを促うながしたり、サポートするツールです。

パソコンや携帯電話のメールと同様、文字や絵、写真、動画を送るだけでなく、音質は微妙ですが通話も可能という多機能に加え、サービスは基本的に無料で、面識のない人とつながることができます。
スマートフォンを愛用する若者を中心に大人気のアプリケーションソフトなのです。

ただ、ラインも使い方次第で、個人情報漏やプライバシーの侵害の原因になりかねません。
何より怖こわいのは、見ず知らずの人と連絡をとることでトラブルに巻き込まれる事例が、特に青少年の間で多発していることです。

過去には、富山県内で女子中学生が「美人局」で逮捕された事件も起きており、規制の強化が急がれています。
「個人情報をしつこく聞いてくる」
「エッチな話をしてくる」
「好意を寄せてくる」。
このような刺激的なやりとりに疑いを持たない人は、だまされたり、犯罪や興味本位の性行為に巻き込まれたりすることが多いのです。

子供を把握したい親

このようにラインには、多種多様の目的をもった人たちが出会い、さまざまな危険にさらされる場を提供している側面があるようです。

正しく使っているうちは良いのですが、子供たちは周りで利用している仲間の影響を受け、多かれ少なかれ、目新しく便利なツールに引き込まれていくのは仕方がないのかもしれません。

思春期を迎えた年ごろの娘を持つ親としては、その利用状況を把握しておきたいと思うのが自然ではないでしょうか。
ただ、かまい過ぎると子供は親をうるさく感じ、そこから深い溝ができてしまうことが多いのも事実です。

だから、どうしても子供任せになってしまいます。そして、我が子の交友関係が分かったころには、既に異性との不純な交遊にどっぷりはまっていることも少なくないのです。

反抗的、隠しごとも

白山市の主婦北川順子さん(44)=仮名=の場合、親子関係がより複雑になったもう一つの原因は、娘自身も性に対して好奇心旺盛で、積極的に男性を誘惑わくしている様子がうかがえたことです。
順子さんは、大輔さん(46)=仮名=との間に高校1年の一人娘里奈さん(16)=仮名=を持つ、ごく普通の主婦でした。
里奈さんは特に勉強やスポーツが出来るタイプではなく、ごく一般的な明るい少女でした。

しかし、いつしか母子の会話が少なくなり、里奈さんは何かと反抗的になったり、隠しごとをするようになり、成績が急に落ち込むような事態に陥いったのです。

順子さんも気にしてはいたのですが、ただ単に思春期の難しい時期を迎えているのだと、娘の行動を特に疑いませんでした。

というより、疑うことを避けていたのでしょう。

スマホを見て絶句

そんな順子さんがある日、娘が登校している平日の昼間、散ちらかっていた娘の部屋を掃除しようとしたら、引き出しの中に買い与えていたスマホを見つけました。
スマホはロックされておらずおそるおそるラインをチェックしてみたところ、残されていたのが冒頭のやり取りだったのです。
思春期を迎えた娘だから覚悟はしていたものの、ショックを隠せませんでした。

相手はどんな男なのか。その答えを聞きたい一心でしたが、ぐっとこらえ、様子を見ることにしました。
なぜなら、携帯電話を盗み見みしていたという事実は、親子といえど、最も溝が深まる原因になりかねないからです。
順子さんは、外堀を埋めてから、きっちり一発で仕留めようと心に決めました。

2人を尾行する作戦

ラインのやりとりは、その後も続きました。

「親にばれないように注意してね」
「親は大丈夫… 逢いたい」

こんな状況を、順子さんはとても一人で悩んでいることができず、今後の対応について夫と話し合いました。

その結果、まず、相手男性の身元を割り出し、どんな男性で、いかなる立場なのかを明らかにする。
そして、できることなら、この男性から娘に別れるよう言い出させ、仮に犯罪性が高く手に負えないなら、その時に別の手段を考えようとの結論に達したのです。

順子さんは私たちの事務所へ依頼に訪れました。

「現時点で、単に娘に言い聞かせられるものではないが、このまま放置するわけにもいかない。とにかく、相手が何者なのかを知りたい」。

まさに親の切なる願いでした。

しかし、手掛かりはスマホに残された「真一」という名前と携帯電話番号のみです。もとより、個人情報保護にうるさいこのご時世、ネットワークからの情報はおろか、不正に電話番号から住所、氏名を見つけ出すことはできません。

そこで、ラインのやりとりをもとに里奈さんを尾行し、「真一」と接触後 、そのまま2人をつけるという方法に賭けたのです。

「別れさせたい」切なる親の願い

「何とか応えたい」

この方法の難しさは、2人のどちらにも悟さとられないようにしなければいけないことです。

ですが、ひるんではいられません。窮地に陥る前に娘を救い出したいという気持ちに、私はいつしか「何とか応えたい」と思うようになっていました。

数日後、私たちは作戦を実行に移すチャンスを得ました。

「学校の行事で、いつもより早く終わるから、真一さんの今日の予定はどう?」
「大丈夫、俺も今日ならちょうど都合がいいんだ」
「真一さんの都合がいい場所でいいよ。学校の近くだと嫌いやでしょ」
「じゃあ、○○ゲームセンターは知ってる?」
「知ってる」

娘が登校した後、順子さんが娘のスマホを確認したところ、こんなやりとりが残されていたのです。
どうやら2人は、朝からラインで連絡を取り合っていたようです。

私たちは早速、里奈さんを尾行するチームと、待ち合わせ場所で待機するチームに分かれ、待ち合わせ場所には両親も来てもらうことにしました。

私はこのような場所を指定するからには、通い慣れている人物だと想像していました。

相手は過去に調査した男

約束の午後2時半。ほどなくして、待ち合わせ場所にやってきた人物に私は驚きました。それは、過去に調査したことがある男子学生(22)でした。
実は過去に、ある女性から「彼氏に、私以外に付き合っている人がいるかもしれないから調べてほしい」と依頼された時の調査対象者だったのです。
なんという奇遇でしょう。世の中って狭いものです。

「あの男なら身元を知っています」。私は順子さんにそう告げ、調査員を引き連れて2人を追い掛け、車に乗り込む前に接触しました。

そして、里奈さんに男子学生の派手な女性関係を伝え、スリルや好奇心だけに身を任せる男女関係は止めるべきだと説得したのです。
私の「そんな関係は『恋愛ごっこ』に過ぎない」との言葉に、里奈さんはショックを受けた様子でした。

今回の調査で見逃せないのは、順子さんと大輔さん夫婦が、力を合わせて娘をトラブルから守ろうと動いた点です。

子を思う親心が、夫婦の絆を深めたのは言うまでもありません。
「もう、このようなことは止める」と娘の約束を取り付けた夫婦の表情に、ようやく笑顔が戻りました。
私も、まだ幼なさが残る一人の少女の人生が救われた気がして、気づいたら「親」のような気持ちになっていました。

(登場人物は調査結果を素材にした創作です)

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