第3章 移り行く女性像 ③ 武家社会 041P
持っていたのは、別段不思議でもなんでもなく、一人の女だけにかかわり合っていて、血統を純やすようなことになっては、それこそ先祖に対して申し訳が立たない、と考えていたからである。
これが明治に入っても、旧民法に制度として取り入れられていたのだから、女の人権とか男と平等とかは、爪の垢ほども考えていなかったといわれてもしかたがない。
すっかり崩壊してしまったといえるのは、つい、いやもう太平洋戦争以後のことである。
「それじゃ、昔のほうが良かったのでないか?」
と考えるような能天気の男どもがいても、それは己の身分をわきまえないものの夢物語であって、私の亡祖父のように、水呑み百姓や貧乏町人には、妾やその子たちまで養っていけるほどの力がなかったから、
「麦と米とのたきまぜ飯も、ろくに食えない百姓の倅(せがれ)」
で、親の勧めるまま嫁をあてがわれ、一方のバァさんも、
♪いいの、いいのよ、ふり向かないわ
曲がりくねった、坂道だけど、ついてゆきます、夫婦坂……
の心境で嫁いできたのである。
続く・・・