第3章 移り行く女性像 ① 民話の世界 034P
に隠して身につけるとすれば、「たかが腰巻、されど腰巻」である。
やがて男の旅立つ船出がやってくる。
♪船が着く日に、咲かせた花を
船を出る日に、散らす花……
好きな男と別れがつらい、いっそ海を荒れさせ出船を止めよう、と神仏に祈願しようにも、女人禁制でおいそれと神社・仏閣に参拝できないという、今の世では想像できない時代である。
それなら村人の鎮守である地蔵さんにおすがりして、命より大事な腰巻を進物する。やさしいお市のこと、せっかく差し上げるのだから、「浜の潮風は冷たいでしようね」と地蔵の体に、ショールのように巻いてかけてあげる。
その切なく一途(いちず)な願望とお市のやさしさにほだされて、地蔵の慈悲の念力で、海を荒れさせた。
それ以来、この話が口から口へと伝わり、お市のような境遇の女たちが、同じように自分の腰巻を地蔵に打ち掛けて、出船が止まるよう祈ったという。
こうして、伝説というのは人々の暮らしのなかで子守歌のように、人々を温かく包み、夢とロマンを時代から時代へと後世に伝えているのである。
また、そこには常の世に求められる、またそうありたいと願う女性像を伝えてきたのである。
続く・・・
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