第3章 移り行く女性像 ① 民話の世界 032P
伝説の女性は、なぜか悲哀のなかに美しさがあるようだ。
その姿に羨望(せんぼう)を感じながらも、まともな教育も受けられず、許しなく外へ出られず、顔をさらすことさえ控えた時代の女性像は、伝承の世界でしか見ることができない。
北陸の地に伝わる物語は、人のしがらみと厳しい自然が共通しているのか、非常によく似ている。
福浦港から約一キロ南寄りの松林の中に、海を見下ろすようにして、風化した小さな地蔵が立っている。
この地蔵を、地元では「腰巻地蔵」と呼んでおり、結ばれない恋の悲しい物語を伝えている。
貧しさゆえに身売りされてきた、お市という遊女が、晴れて夫婦と誓い合った船頭を待ち焦がれていたが、海難に遭ったことを知り、まるで憑(つ)かれたように、くる日もくる日も海辺に立つ。
沖合はるかに船が通ると、白い帆に向かってその名を呼んだ。しかし、戻らぬことを知り、悲嘆のあまり海に身を投じた。
その不憫(ふびん)さを哀れんだまわりの人々が、地蔵を建ててお市の霊を慰めたという。
その地蔵のそばにある石碑に、「能登福浦の腰巻地蔵は、けさも出船を、またとめた」と刻まれている。
それにしても、「腰巻と地蔵」の
続く・・・