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アクタス1993年6月号 ▼探偵の人間万華鏡▼⑥

2019年5月22日 (水) アクタス1993年6月号に掲載された当社代表の連載をご紹介します。

単身赴任で不倫の誘惑

長い髪の毛で浮気を直感

「主人が浮気をしているんじゃないかと気になって最近、あまり眠れないんです。確かめて下さい」

千葉県習志野市に住む主婦(42)から調査事務所に電話で依頼があった。主婦の話によると、夫の寺田健介さん(46)=仮名=は東京に本社を置く大手企業に勤めており、二年前に金沢支社に転勤になった。家族全員で転居したかったが、子供が中学生であることから、やむなく単身で赴任したのである。

赴任当初、妻は月に2,3度、寺田さんの住む金沢市内のマンションの様子を見に来ていた。しかし、長男の高校入試が迫ってきたため、こ こ半年間はほとんど訪れることはなかった。

寺田さんに不信感を抱くようになったのは今年12月からである。息子の受験が終わって久し振りにマンションを訪ねた時、部屋の中を見て「おかしい」と直感した。以前ならいつ訪ねても部屋や台所は散らかし放題だったのに、この時は打って変わって細かいところまで整理整頓が行き届いていた。夫の性格から考えると自分できれいにしたとは思えない。しかも、トイレと風呂場には明らかに女性のものとわかる長い髪の毛が数本落ちていたのである。

風呂場の髪の毛は気付かないふりをし、その場で寺田さんを問い詰めた。寺田さんは「せっかく、お前が来るというので台所や部屋を片づけたんだよ」「トイレに髪の毛だって?女子社員の髪の毛が会社で知らないうちに背広に付いたんじゃないかな」と言い訳をした。しかし、夫は視線をそらし、言い方が妙にぎこちなかった。妻は「嘘をついている」とピンときたものの、話題をそらし、それ以上しつこくは尋ねなかった。

千葉に戻って数日たった夜、マンションに電話した。寺田さんはすでに帰宅しており、電話ロには出た。

しかし、だれかに気づかいするような話しぶりで、用件だけ聞いて電話を早々と切った。妻は部屋の中にだれかがいる気配から、こう直感した。

「部屋の中にいるのは、きっと女性に違いない」

相手は会社の独身OL

早速、単身赴任の寺田さんの素行調査に入った。寺田さんは午後七時二十分ごろ、勤務先の駐車場から千葉ナンバーの車を運転して出てきた。尾行したところ、この日はまっすぐマンションに戻った。近くの道路から監視を続ける。同八時ごろ、淡いブルーのスーツ姿の女性が現れ、道路に面した二階の寺田さん方のチャイムを押した。玄関ドアが開けられると、女性の姿は部屋の中に吸い込まれるようにして消え、内カギのかかる音がした。

しばらくしてから、玄関ドアに耳を当ててみた。部屋の中から女性の笑い声が聞こえる。会話の内容は聞きとれないが、楽しそうな弾む声だ。男の声はあまり聞こえない。女性の方が一方的にウキウキと話しかけているようである。

同十一時過ぎになって、玄関ドアが開き、寺田さんが最初に出てきた。パジャマ姿だ。後から女性が人目を避けるようにキョロキョロ見回しながら出て来た。二人は一緒にエレべーターで一階に下り、マンション裏に隠すようにして止めてあった車に女性だけが乗り込んだ。寺田さんは女性の車が走り去るのを見届けてから再び部屋に戻った。

その後の調べで、女性は野々市町の一戸建て住宅に住んでおり、同じ勤務先で働く三十歳の離婚歴のあるOLとわかった。

電話の回数減り疑心暗鬼

寺田さんのように、単身赴任中の会社員の妻からの調査依頼は、ここ数年増加傾向にある。「夫が浮気をしているような気がするのだが、確認してほしい」との依頼である。夫は年齢が四十代から五十代で、中学生か高校生の子供のいるケースが多い。単身赴任後、一年以内で浮気する男性はまれだ。大方が仕事や赴任先での生活に慣れたころ、不倫に陥るケースが多いようである。

名古屋市に本社を置く中堅企業の金沢営業所長、田坂和夫さん(48)=仮名=の妻から調査依頼を受けたのは、田坂さんが名古屋市に妻子を残して赴任し、二年余りたったころだった。

妻の話によると、田坂さんは野々市町郊外にある一戸建ての社宅に住んでいる。赴任後は週末になると家族の待つ名古屋に戻り、ウィークデーは毎晩のように家族に電話連絡してきた。仕事が忙しくない限り、毎晩十時過ぎに定時の連絡を取るのが、赴任に先立って夫婦の間で決めた約束だったのである。

しかし、四カ月ぐらい前から田坂さんの様子が変わり始めた。名古屋に戻る回数が次第に少なくなり、電話もかけてこなくなったのだ。妻が夜、社宅に電話しても夫のいない日が続いた。

妻は夫が浮気をしているのではないかと疑った。しかし、そんな思いがせり出すたびに「夫を疑うなんて私はどうかしている」と、むしろ自分自身を責めていた。

とはいえ、やはり不安な気持ちをぬぐい去ることはできず、眠れぬ日々が続いた。夫に電話をかけてこなくなった理由を尋ねたところ、「以前と比べると、仕事が随分忙しくなったんだ。すまないとは思うんだけど、本当に時間的にも精神的にもゆとりがないんだよ」と弁解した。妻は「電話ならどこからでもかけられるはずだ。電話をかける時間もないなんて本当かしら。おかしい」と疑心暗鬼になり、夫を疑うことに対して罪悪感を抱きながらも、意を決して調査を依頼してきたのである。

半年前から人妻と交際

田坂さんの尾行調査を始めた。四月のある金曜日。田坂さんは午後六時過ぎに退社し、車を小松方向に走らせた。車はJR小松駅前で停車し、走り出す気配がない。だれかを待っているようだ。二十分ぐらいすると、四十代前半の背の高い女性が手を振りながら、小走りで車に近づいて来て助手席のドアを開け、そのまま体を車内に滑り込ませた。車は再び金沢方向に向かって走り出した。さらに尾行を続ける。 車は野々市町の食品スーパーの駐車場で止まり、二人は店の中に入って行った。買い物をする姿は仲むつまじい夫婦そのものである。相談しながらネギ、豆腐、ナスなどを買い物かごの中に入れている。

十数分後、二人はスーパーを出て、近くの田坂さんの一戸建ての社宅に入って行った。間もなくして台所の明かりが灯る。タ食の支度をしているようだ。午後十一時五十分ごろ、家の明かりが全て消えた。女性は田坂さんの社宅で一夜を明かしたのである。 翌日午後十二時ごろ、二人は家から出て来て車に乗り込んだ。車を追跡したところ、二人が前日に落ち合ったJR小松駅前で再び止まり、女性だけが降りた。

その後の調べで、女性は小松市内に住む四十三歳の人妻で、二十一歳と十九歳の二人の娘がいることがわかった。田坂さんとは半年前に仕事を通じて知り合い、深い関係に陥ったらしい。

男女の不倫調査の結果をみると、十年も前なら男性の不倫相手は水商売関係の女性が比較的多かった。ところが、最近では相手は人妻や若い独身の女性が多くなっている。女性週刊誌などで性に関する情報がはんらんし、貞操観念が希薄になっている表れかも知れない。当然、単身赴任者の、”現地妻”も大半が人妻か若い独身のOLである。

調査事務所の業務範囲は、綿密に調査をした結果を依頼者に報告するまでであり、当事者の問題に深く立ち入ることはできない。不倫の事実を知った妻が夫に関係の清算を迫るであろうことは容易に推測できる。

しかし、その後、不倫が単なる火遊びで終わったのか、それとも単身赴任のすれ違い生活からくる夫婦間のミゾを一気に深め、家庭崩壊にまで至ったのかまでは知らない。(最近の調査結果を素材にした創作です)