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アクタス1993年4月号 ▼探偵の人間万華鏡▼④

2019年3月10日 (水) アクタス1993年4月号に掲載された当社代表の連載をご紹介します。

▼探偵の人間万華鏡▼④ 結婚間もない新妻失踪

結婚前に不審な匿名電話

「新婚旅行から戻って一週間後、嫁が突然いなくなったんです。捜して下さい」

金沢市内に住む五十代の主婦がおろおろした表情で、事務所に調査依頼に訪れた。主婦の話によると、息子の谷川隆司さん(30)、涼子さん (26)=夫婦1いずれも仮名=が新婚旅行先のヨーロッパから帰国したのは、約ー力月前のことである。涼子さんは夫側の親類のあいさつ回りを 終えた後、「ちょっと実家へ行って来る」と言い残して家を出た。ところが、12日たっても帰って来ない。隆司さんが実家に電話で問い合わせたところ、涼子さんは顔を出していないことが分かった。

隆司さんは行き先に心当たりはなかったものの、婚約期間中のある日の深夜、自宅にかかってきた不審な電話のことがふと頭に浮かんだ。低い声の匿名男性からの電話だった。

「実は涼子さんは会社の上司と深い関係なんですよ。あなたは本当に結婚するつもりなんですか」

電話の主はそれだけ言って、電話を切った。その時、隆司さんは単なる嫌がらせ電話と思って聞き流していた。というのも、涼子さんは当時、すでに会社を辞めて花嫁修行に入っており、新婚旅行の打ち合わせをしている時も子供のように目を輝かせていたからだ。実際、結婚式の日取りも決まっており、別の男性と交際を続けているとは到底信じられなかった。

新婚旅行先で夫を拒否

しかし、新婚旅行先での涼子さんの様子は確かに一風変わっていた新婚初夜は何もなく過ぎてゆき、隆司さんがベッドの中で誘っても「今 日は疲れているから、このまま眠りたいの。明日にして」の繰り返し。

結局、旅行中には夫婦関係は一度もなかった。

隆司さんは結婚前、女性との交際経験がほとんどなく、女性の扱い方についてはどちらかと一言えぱぎこちない方ではあった。 「恋愛結婚と違って、見合い結婚の場合は最初はこんなものかも知れないな。数力月前までは全く顔も知らない赤の他人だったんだし、おれも 女性の扱い方は確かにスマートな方じゃないからな」

隆司さんは、新婚旅行先での妻のよそよそしい態度は、自分自身の不器用さに原因があるのかも知れないと思い悩んだり、慣れない外国に来て体調を崩したのではないかと心配したりもした。ところが、新婚旅行から戻って間もなく妻が失跡し、妻に対する疑心暗鬼がせり出してきたのである。

妻の実家では、

「旅行中に二人の間で何かトラブルがあったのじゃないですか。心当たりは本当にないのですか」

と遠回しの言い方ながら、失跡の原因は隆司さんにあると言わんばかりであった。

不倫続ける覚悟で結婚

隆司さんが結婚前に受けた一本の電話を手掛かりに調べてみると、涼子さんと元勤務先の上司との不倫の噂さがすぐに耳に入ってきた。男性は三十六歳で、妻と子供二人の四人家族である。元上司の尾行調査を始めた。

勤務先だった金沢市内の建築会社の駐車場付近で待機し、退社後の元上司の車を追跡した。調査を開始して一ニ日間は、勤務先から決まったコースで松任市の自宅に帰宅した。車のコースが変わったのは四日目である。自宅とは反対方向に走り、松任市郊外の新興住宅地の二階建てアバートの前を素通りして、近くの農道で止まった。

男性は車を降りた後、周囲をうかがうようなそぶりを見せながらアパートまで戻り、階段を足早にかけ上って203号室に姿を消した。部屋にはすでに明かりが灯っており、人が住んでいる気配がした。アパートの郵便受けを確認したところ、ネームブレートには元上司の名前が書いてあった。

近くに止めた車の中からアパートの監視を続けたが、午前零時を回っても男性は部屋から出て来ない。部屋に入ってからすでに五時間が経過している。男性の自宅に会社の者だと名乗って電話したところ、電話に出た男性の妻はこう答えた。

「夫は出張中です。今日は家には戻りません」

その日の監視はいったん打ち切った。

日を改めて再びアバートを訪ね、別室の入居者に涼子さんの写真を見せたところ、予想通り203号室の住人は涼子さんと確認できた。涼子さんは約二週間前から住んでおり、時折、男性が訪ねて来るという。二週間前と言えぱ、涼子さんが「実家にちょっと行って来る」と言い残して嫁ぎ先を出た時期と一致している。涼子さんは嫁ぎ先を出て以来、このアパートに住み、不倫相手の元上司と密会を重ねていたわけである。さらにアパートを管理する不動産屋に当たった結果、衝撃的な事実が分かった。涼子さんと男性は、涼子さんが結婚するーカ月以上も前に、結婚後も密会を続ける覚悟でアパートの一室を確保していたのだ。

涼子さんは世間体を気にする親の勧めで渋々見合いし、元上司に対する恋心を断ち切れないまま、結婚に踏み切った。元々、結婚後も不倫関係を続けるつもりであり、いわば形だけの”仮装結婚”だった。アパートを契約した時は、隆司さんに気付かれないように時折、密会するつもりだったのだろうが、元上司に会いたいという思いを抑えきれず、感情のおもむくままアパート暮らしを始めてしまったのである。

親の説得で見合い結婚

新婚旅行から帰って間もなく、新妻が行方不明になり、居場所を突き止めてほしいとの依頼は、ここ数年確実に増えている。調べてみると、涼子さんのように失跡の原因が結婚前から続く不倫だったというケースも多い。結婚後も不倫関係を続ける”仮装結婚”は当然のことながら、いずれ破局を迎える。それなのになぜ、結婚するのだろう。彼女たちに結婚する相手の気持ちを考える心の余裕はないのか。不倫が発覚すれば離婚すればよいと、結婚を安易に考えているのかも知れない。若い世代に、自己本位な考え方が広がっていることの表れとも言えよう。

金沢市内に住む五十代の別の主婦からの調査依頼も、結婚間もない娘さんの居場所を捜してほしいというものだった。主婦の話によると、娘さんは二十四歳で見合いして岐阜市へ嫁ぎ、半月後に「実家に行ってくる」と言い残していなくなった。主婦には心当たりがあった。娘さんが結婚するまで勤めていた金沢市内の鉄工所の社長をマークすれば、居場所がつかめるかも知れないというのだ。

社長は五十四歳で妻子があり、女性関係で噂の絶えなかった人物である。主婦は、娘さんが社長と不倫関係にあることを知り、将来を案じて鉄工所を辞めさせ、強引に見合い結婚をさせたのである。

依頼を受けた翌日から調査に入った。社長が運転する黒色クラウンを追跡したところ、金沢市北部にある木造二階建てアパートの前で止まり、社長は二階の一室に入って行った。約四時間後に部屋から出てきたが、その際、ドア口まで見送りに出て来た女性こそ、捜していた娘さんだった。両親は早速、自宅に連れ戻したものの、娘さんは妊娠四カ月の身重であり、胎児の父親は社長と分かった。むろん結婚する時には、妊娠していることに気付いていなかったようだ。 両親は、嫁ぎ先には娘さんが急に体調を崩したと言い訳して時間を稼ぎ、娘さんに中絶するよう説得を続けた。娘さんは「私は子供を産む」と言い張ったが、社長からも中絶を懇願され、泣く泣く同意したのである。風の便りによると、娘さんは一カ月近く実家で静養し、両親の説得を受けて嫁ぎ先に戻った。しかし、”仮装結婚”本物の結婚になったのか、そこまでは聞いていない。 (最近の調査結果を素材にした創作です)