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アクタス12月号 女探偵は見た 人生こころ模様 第12回

2014年12月20日 (木) 親の離婚が子に連鎖
 
アクタス 2014.12月号

 桂木紀子探偵事務所は、おかげさまで創立50周年の節目を迎えました。その歴史の中で、私が特に心を痛めたのが、半年前、当社に調査を依頼した金沢市の会社員福野徳重さん(59)=仮名=と妻の良子さん(58)=同=のご夫婦のケースです。
福野さんの家族は二世帯で、息子夫婦と同居していました。長男の会社員秀樹さん(31)=仮名=と妻の綾香さん(28)=同=の間には、6歳と4歳の子供がおり、近隣住民からも「いつも仲良しで、福野さん一家は幸せですね」なんて声を掛けられるほどでした。
しかも、福野さん方から少し離れたところには、長女の夫である会社員黒川達也さん(33)=仮名=と長女の芳美さん(29)=同=の夫妻が家を建てて住んでいました。
このように、福野さん夫婦は身内に囲まれ、誰もがうらやむような幸せな生活を送っていたのです。

「息子の相手に限って…」

 しかし、良子さんには一抹の不安がありました。同居する嫁の綾香さんが、息子とうまくいかなくなってきたのです。
綾香さんは小学4年の時、父親の浮気が原因で両親が離婚していました。そのことは、姑の良子さんにとって、不安材料でした。なぜなら、綾香さん自身にも影響を及ぼし、息子との関係もほころびやすくなるかもしれないと思ったからです。
良子さんの考えは、見当はずれではなく、むしろ、当たっていると言えます。もちろん例外は多数ありますが、「離婚した親の子もまた、離婚する」という離婚の連鎖が統計的にも多いのは事実なのです。
実際、離婚を経験した親の子供夫婦がうまくいかなくなり、子供から相談を受けた親が「そんなに我慢するのがつらければ、別れたらいい」とアドバイスする、といった場面は数多く見られます。
このような風潮から、良子さんは「息子の結婚前にもっと慎重になるべきだった」と思い悩む日々が増えていったのでした。「綾香さんは息子が好きになった人。彼女に限って、人の道から外れるような悪いことはしないだろう」
良子さんは、ただ信じるしか術すべはなかったのでした。

嫁が別居を持ち掛け

 綾香さんはスーパーマーケットにパート勤務していました。しかし、1年ほど前から、帰宅が遅くなる日が増え、化粧や身なりが派手になり、良子さんたちに接する態度も変わってきたうえ、別居をしたいと夫の秀樹さんに持ちかけてきました。
そんな綾香さんの行状に、福野さん夫婦は、とうとう調査を決意したのでした。
福野さん夫婦の依頼は、綾香さんの素行調査と、離婚になった場合に孫を引き取って暮らせるよう、示談交渉に少しでも有利な証拠を掴んでほしいという内容でした。
「今後、離婚になった場合、綾香さんがかわいい孫を連れて出て行くことは想像に難くない。まずは、別居したいという理由をハッキリさせて、息子や孫、何よりも福野家を守りたい」
「必要以上に心配を掛けたくないので、今の段階では、息子に内緒で調べてほしい」
福野さん夫婦の口から出た言葉は、同じ境遇の誰もがそう思うであろう親心が込められていました。その言葉に打たれた私は依頼を引き受け、尾行調査を開始しました。

暗闇の車内で情事

 調査3日目の夜、私たちはスーパーマーケット建屋の裏側に駐車された車に、仕事を終えた綾香さんが乗り込む姿を確認しました。
これを追尾すると、綾香さんは金沢市郊外の公園の駐車場に到着後、そこで待っていた別のセダンタイプの車の助手席に滑り込んだのです。不倫に走っていると、誰もが想像すると思える状況でした。
綾香さんは約2時間、暗闇の駐車場に止まったセダンの中で過ごした後、自分の車に戻り、自宅方向へ走り出しました。
片やセダンの男は、綾香さんが走り去ってから約15分後、明らかに周囲を警戒するようなそぶりを見せながら公園を後にしました。その様子に、私は初期段階での無理な追尾は避けた方が無難だと判断し、尾行はいったん打ち切りました。
それから数日後、綾香さんは再び、同じ公園の駐車場に車を止め、セダンの助手席に乗り込みました。ところが、前回と同じように暗闇の中で過ごすと思いきや、セダンは突然走り出し、金沢市近郊のラブホテルに入ったのです。
この時点で、綾香さんがセダンの男と不倫していることが確定的になりました。

不自然な時間稼ぎ

 ただ、一つ疑問がありました。セダンの男がいつも、綾香さんが駐車場を後にした後もその場に居続け、時間稼ぎをして帰っていくのです。私も現場のベテラン調査員も首をかしげました。
その理由は、男の自宅が判明した時に明らかになりました。
ホテルを出た2人がいつもの公園駐車場で別れ、いつものように綾香さんが自分の車に移って走り去った後、セダンの男もまた、いつものように15分ほどその場に留まり、周囲に注意を払っているように見えました。
不倫の証拠は十分にそろったので、この夜は男の身元を割るため、勝負に出ました。
事前に準備した、いつもとは別の複数の調査車両や調査員を投入。「プロの探偵として、技の見せどころ」と言わんばかりに、尾行に気づかれないよう、入れ代わり立ち代わり調査対象者の車を追跡しました。
セダンは、綾香さんや依頼人の福野さん夫婦らが住む家のすぐ近くの一軒家の駐車場に止まり、男が家に入って行く姿が確認できました。
そうです。男は福野さん夫婦の娘である芳美さんの夫、達也さんだったのです。時間稼ぎは、綾香さんと同じタイミングで帰宅すると、会っていることがバレる危険があったからでした。

「おかしいと思っていた」

 福野さん夫婦に調査報告書を見せた際、思わぬ言葉が帰って来ました。
「やっぱり、あの2人はデキていたんですね」
「ご存じだったんですか」
「はい、夫と話していたんです。あの2人は仲が良すぎるねって。達也さんが家に来た時も、いつも綾香さんと仲良くしていて、おかしいと思っていたんです。でも、証拠もなしで、そんなことは言えない。しかも、それが息子の嫁と娘の婿ということなら、なおさらです」
福野さん夫婦はさらに、こう続けました。
「息子もおかしいとは思っていたんでしょうが、妹を気遣ってのこともあるのでしょう。一切、口に出さないばかりか、気のせいだと私たちに言うくらい
だったもので、内緒で調査をしたんです。身内の恥をさらすようだったので、不確定な時点で、娘婿が怪しいとは言えなかった。申し訳ありませんでした」
恐縮する夫婦に対し、私は「これからどう対応しますか?
具体的に決まっているなら、アドバイスさせていただきます」と申し出ました。
すると、良子さんは「実は、娘の芳美がこの一件に気が付いていないようで、本当に辛い」と言った後、目から涙をこぼしました。隣にいた夫の徳重さんも一緒に泣きくずれました。
私は夫婦に掛ける言葉がすぐに見つかりませんでした。そして、気を取り直して、「命まで奪うばわれたわけではないですから。まずは息子さんに事実を話してから、作戦を練りましょう」と促しました。

親族会議、そして離婚へ

 後日、福野さん夫婦、息子、娘の4人全員が当社に集まり、話し合いの場を持ちました。
そこで分かったのは、娘の芳美さんも、夫と兄嫁の仲を疑っていたものの、疑惑を明るみに出しても家族全員を巻き込んでしまうため、胸にしまい込んでいたということでした。
私は4人に向かって、こう言いました。
「血がつながっていないとはいえ、親族同士なのに、そのような大胆なことをやってしまう人たちの神経は信じがたい。皆さんが今後、身内としてやっていくのが難しいと考えるなら、関係する親族全員が集まった場で事実を明らかにするのが最善の道ではないでしょうか」
その後、親族間で話し合いが行なわれ、息子夫婦と娘夫婦がそれぞれ離婚する方向になったそうです。
ちなみに、娘婿の達也さんの両親は離婚協議中でした。綾香さんの両親も、すでに婚姻関係を解消しています。
「やっぱり、親が離婚すると、その子供も離婚するのでしょうか」
福野さん夫婦の問いかけに、私は「可能性は否定できませんね」と答えるしかありませんでした。

(登場人物は調査結果を素材にした創作です)