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アクタス9月号 女探偵は見た 人生こころ模様 第9回

2014年9月20日 (土) 偽りだった結婚生活
 
アクタス 2014.9月号

 結婚生活がマンネリ化し、刺激を求めて不貞行為に走る。夫婦間でよくある話ですが、現代社会では、既に夫婦関係の基盤を破壊する行為以外の何物でもありません。
 にもかかわらず、いまだに見つからなければ大丈夫という安易な気持ちが人の心に宿り、諸悪を助長させているのです。

《予定より早く帰宅》

金沢市の会社員横田博さん(31)=仮名=が、妻早苗さん(30)=同=の浮気に気付いたのは、今年2月の雪が降り積もった日のことでした。
出張中の博さんが、家族を驚かせようと、予定より1日早く仕事を切り上げ、何の連絡も入れずに大阪から車を走らせて来たのでした。
ところが、午前0時過ぎに帰宅しても、早苗さんがいないばかりか、長男翔太ちゃん(2つ)の姿もありませんでした。
博さんは早苗さんに電話を掛けましたが、出る気配がなく、段々不安になってきました。15分後、ようやく早苗さんから電話が入り、博さんは、心配のあまり思わず怒鳴声を上げました。
「おまえ、いったいどこに行っとるんや!」
しかし、早苗さんは逆ギレした様子で切り返してきました。
「翔太がぐずったから、ドライブしとっただけや!」
妻と子を喜ばせようと思い急いで帰ってきた博さんは、すっかり気落ちしてしまいました。
実をいうと、博さんは早苗さんに対しておぼろげな不信感を募らせていました。博さんが1日早く帰宅しようと考えたのは、妻が浮気していないかを確認する意図もあったからです。

《「できちゃった婚」で入籍》

 博さんが早苗さんを信じられないのは、そもそも2人が「できちゃった婚」で籍を入れた仲だからです。
異性関係が派手だった早苗さんの妊娠が分かった時、博さんは本当に自分の子供なのか、不安をぬぐえませんでした。それでも、彼女の貞操を信じて結婚しました。
ほどなくして長男が生まれましたが、長男を父親似だと言ってくれる人は誰もいません。授かった子供を前に「おれの子か」とも言えず、博さんは夫として、そして父として責任を果たす覚悟を決めていました。
しかし、深夜のドライブはさすがに納得できず、博さんはその後、早苗さんの行動を注意深く観察するようになりました。
特に目に付いたのは、早苗さんがスマートフォンを決して離そうとしないことでした。いよいよ不信感を強めた博さんはある日、隙を突いて妻のスマホを見ることに成功しました。
「夫に警けい戒かいされないで会う方法を考えたの」
「何だよ」
「スポーツクラブに入会して時間を作る」
「それはいいかもな」
「早く奥さんとして迎えに来て」
「旦那と別れたら考えるよ」
早苗さんは無料通信アプリ「ライン」で、見知らぬ男性とこんなやり取りを続けていたのです。
これは決定的ともいえる内容ですが、博さんは示じ 談だんであれ訴訟であれ、絶対に覆がえることのない確たる証拠を掴むため、早苗さんを問いただすのを、ぐっと我慢したのでした。

《高収入を求める妻》

 「慰謝料をふんだくってやる」 博さんは浮気調査を依頼するため当社事務所を訪れ、こう息巻きました。乱暴な物言いですが、彼の怒りはもっともだと思えました。
常習的に会う時間を作るためのアリバイ工作は、実はよく使われる手口です。
博さんによると、ラインのやりとりから、早苗さんの浮気相手は同じ会社の上司に当たる林大輔さん(41)=仮名、金沢市=で、大輔さんはバツイチであることが判明していました。
早苗さんはなぜ、上司との結婚を望んだのでしょうか。
年上で頼もしいところにひかれたのは想像に難かたくないですが、どうやらそれ以上に、大輔さんの収入に魅力を感じていたようでした。
大輔さんは部長職に就いており、年収は約850万円と、安定した生活を送るには十分な収入を得ていました。派手好みの早苗さんにとって、高収入は重要な条件の一つだったのです。
ところで、一般的に未婚女性は、結婚相手にいくらの「最低年収」を求めているのでしょうか。
明治安田生命保険相互会社の関連企業である明治安田生活福祉研究所が今年3月、未婚女性を対象に行った調査では、20代で57・1%、30代で65・5%が
「400万円以上」を希望していると回答したそうです。
おそらく、早苗さんにとって「400万円」は物足りない数字のはずです。ましてや、そこに届くかどうかという収入の博さんは、遊び相手の1人にすぎなかったのではないでしょうか。
こうした背景から、早苗さんは、当時結婚していた大輔さんの心をかき乱したかっただけの、当てつけの結婚だったことが推測されました。

《 結婚前から浮気続く》

 博さんが早苗さんとの離婚を望んでいたため、私はその気持ちをくみ、さっそく依頼を受けることにしました。
博さんによると、早苗さんは週に2回ほど金沢市内のスポーツクラブに行って遅くなる日がありました。私たちは、その日を狙った日程を組み、早速、調査を始めました。
早苗さんと大輔さんは、人けのない真っ暗な駐車場に車を止め、長時間一緒に過ごしていました。私たちは暗視カメラを使い、車内での行為を何とか押さえることができました。
さらに、相手の言い訳わけの芽を摘み取るため、博さんに「カラ出張」をしてもらいました。これが功を奏してか、2人がラブホテルに入り、一夜を謳歌する様子を証拠化することができました。
調査結果を聞いた博さんは、早苗さんと大輔さんを呼び出し、証拠をもとに3人で話し合ったのです。
そこで新たに、早苗さんは博さんと結婚する前から、大輔さんと交際していた事実が判明しました。博さんの顔はみるみる血の気を失っていきました。心がズタズタに引き裂かれたに違いありません。
「それじゃあ、翔太の父親はいったい誰なんだ」
博さんは、今まで口にできなかった言葉を吐き捨てるように言い放ちました。2人がうつむいて何も話さない姿を見れば、答えは分かったも同然でした。
それでもあえて「どうなんだ」と問い詰つ めると、早苗さんは「あなたと同時に付き合っていたから、分からない」とぽつり。親権の問題もあるため、この際はっきりさせておく必要があるということになり、DNA鑑定を行うことになりました。

《子を思い父子関係に終止符》

 鑑定の結果は、残酷なものでした。博さんと翔太ちゃんが生物学上の父子関係にある確率は、0%だったのです。博さんは男泣きに泣きました。
「今まで家族だと思っていたのに、あの時間や思い出は何だったのか。すべてが音を立てて一気に崩くずれた」。後日、博さんはこう打ち明けました。
民法には「摘出推定」という制度があります。妻が婚姻中に懐かい胎たいした子は、夫の子と推定するとしています。もとよりケースバイケースですが、現状では血縁関係がある父親より、戸籍上の父親が「父」と認定されるのです。
博さんは翔太ちゃんに未練がありました。ただ、血のつながった父親がそばにいる方が子供のためになると思い、泣く泣く翔太ちゃんとの父子関係と、偽りの結婚生活に終止符を打つことにしたのです。
その分、多額の慰謝料を受け取って人生を再出発することになった博さんは「再び人を信じることができるようになるのに時間がかかるかもしれません。それでも前を向いていくことにしました」ときっぱり。その姿に、私はエールを送らずにいられませんでした。

(登場人物は調査結果を素材にした創作です)