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アクタス8月号 女探偵は見た 人生こころ模様 第8回

2014年8月20日 (水) モテ男にはまった娘
 
アクタス 2014.8月号

 「もう私のことはほっといて。これで彼と別れることになったら、お母さんのせいだから」
 金沢市の会社員杉山由香さん(22)=仮名=は涙ながらに、母親に罵声を浴びせ、家を出て行ったのは、5月の大型連休直後のことでした。

《出会い系サイトがきっかけ》

 由香さんは中学、高校、大学を通して部活と勉強に青春を費やしてきたそうです。同級生の周りの女子と比べても、何ら見劣りする容姿ではないと思えますが、内気な性格で自分に自信を持てなかったといいます。
そんな由香さんに今年2月、ようやく念願の彼氏ができました。友人から教えられて始めたインターネットの出会い系サイトがきっかけでした。
相手の男性は金沢市のフリーター塚本陽一さん(35)=仮名=。2人は出会って間もなく性的関係を持つまでに発展しました。
2人のやりとりは、無料通信アプリ「ライン」やメールが主体でした。最近ではごく普通の交際に見えますが、そこに落とし穴が待ち受けていました。
陽一さんは単に性欲を満たしたいがために由香さんと付き合っており、由香さんに対する優しさや愛情は見せかけでした。
由香さんと交際を始めたのも、のめり込みやすいターゲットになる女性を探していたところへ、ちょうど由香さんが舞い込んできただけだったのです。
お互い割り切った関係ならまだしも、由香さんにとって陽一さんは初めての相手であり、純真な気持ちでのめり込んでいったのは無理からぬことでした。

「昨夜は由香と夢の中で、すごくいい関係になったんだよ」
「由香とずっと一緒にいたい」

 こんな女心を揺さぶるメッセージが陽一さんから送られてくるたびに、由香さんの心は満たされました。それは、ある意味、「愛の奴隷」となったようなもので、冷静な判断能力を欠く、いわばマインドコントロールされた状態に等ひとしかったのです。

 そんなある日、陽一さんは神妙な面おも持も ちで由香さんに言いました。
「実は隠しごとがあるんだ」

 おそるおそる由香さんが内容を尋たずねると、陽一さんは自分が妻帯者で子供もいることを告白しました。

 陽一さんは由香さんを完全に好きにさせてから、このような困難な状況を打ち明け、自分の都合の良い関係を築こうとしていったようです。

《不安を募つのらせる母》

 由香さんの母幸枝さん(50)=仮名=は、一人娘に交際相手ができたことに、うすうす気づいていました。

 娘は一体どんな男性と付き合っているのか。どうしても気になる幸枝さんは、何度となく交際相手について尋ねましたが、由香さんはいつも話したがりませんでした。
「良からぬ男と付き合っているのではないか」
幸枝さんは一抹の不安がよぎり、「一度、家に連れてきなさい」と由香さんに言いました。しかし、いっこうに連れてくる気配はありませんでした。
相手の住所や職業といった基本情報すら知らない状況に、幸枝さんの不安は募るばかり。これ以上問い詰めるのは得策ではないとは思ったものの、いても立ってもいられなくなった幸枝さんは、ある夜、由香さんのスマートフォンを無理やり取って、陽一さんに電話を掛けました。
「もしもし、塚本さんですか。私は由香の母です。いつも娘がお世話になっております」
声は平静を装っていましたが、緊張で胸がドキドキし、スマホを持つ手は震ふるえていました。
「あなたのことを娘に尋ねても、何も話してくれません。それで、娘の携帯から電話させてもらいました。哀れな親の気持ちを分かってくれますよね」
幸枝さんは電話の向こうの男性に気持ちをぶつけたのでした。

《誠実そうなイケメン》

 それに対し、陽一さんの返事は意外なものでした。
「お母さんのお気持ちは、もっともだと思います。次の日曜日、どこかでお会いしましょう」
陽一さんの誠実で丁寧に聞こえる物言いに、幸枝さんは拍子抜けしました。さらに、約束の日曜日、面会した陽一さんは、すらりと背が高く、すっきりとした、いわゆるイケメンでした。
「私の不安は取り越し苦労かもしれない」
ほっと一息ついた幸枝さんは
「娘と真剣に交際しているのなら、いずれは結婚という話にもなります。一度、身上書や戸籍謄本などを確認させてほしい」と申し出ました。
すると、陽一さんは屁理屈にも聞こえる言葉を発しました。
「つまり、私は信用されていないということですね。それなら、これ以上、由香さんとお付き合いすることはできません」
陽一さんはそのまま席を立ち、由香さんは冒頭の罵声を幸枝さんに浴びせて家を出るに至ったのです。

《「娘を取り戻す戦争」》

 なす術すべなく、茫ぼう然ぜん自じ 失しつの幸枝さんは、気持ちを落ち着かせた後、こう考えました。
「あの男は、娘をいいように利用しようとしている」怒りがこみ上げてきた幸枝さんは「これは、娘を取り戻すための戦争だ」と意を決し、当社に調査を依頼してきたのです。
娘はどこに住んでいるのか。どんな暮らしをしているのか。売春などに手を染そ めていないか。相手の男性の身の上や家族、評判はどうなのか。事務所を訪れた幸枝さんは、はやる気持ちを抑えられないといった様子で、知りたい事柄を並べ立てました。
調査の最終目的は陽一さんから由香さんを引き離すことでしたが、それは簡単ではありません。なぜなら、由香さん本人の気持ちが頑かたくなだからです。
「時間がかかる戦いになりそうですから、焦あせってはだめです」。私は幸枝さんをなだめ、下調べから始めました。
まずインターネット上で「塚本陽一」と検索しました。しかし、該当する記述はなく、素性について確証を得られるものは何もありませんでした。
そこで、由香さんが家出した時の状況から、着替えや生活必需品を取りに必ず戻ってくると予測し、自宅周辺で張り込みをすることにしました。

《着替え取りに来た娘を尾行》

 予感は的中しました。調査を開始した翌日の昼間、幸枝さんがいない時間を見計ったように、由香さんが姿を現わしたのです。
この好機を逃のがすわけにはいきません。私たちは、着替えなどを詰め込んだバッグを抱えて家を出た由香さんを追いました。
自宅付近には陽一さんが車で待機していました。由香さんが助手席に乗り込んだ後、車は発進しました。
これを確認した調査員も調査車両に乗り、絶対に見つからず、なおかつ、見失うことがないよう細心の注意を払いながら、2人を乗せた車を追いました。
尾行を始めてから約1時間後、2人は金沢市郊外の古びたアパートの一室に入りました。どうやら、2人はここで一緒に暮らしているようでした。
その後、聞き込み調査などを続けた結果、驚くべき事実が判明しました。
陽一さんは妻子ある身でありながら、由香さんだけでなく、もう1人、別の独身女性とも関係を持っていたのです。陽一さんは、2人の女性に生活費を稼がせる「ヒモ」同然の生活を送っていたようです。
この話を聞いた幸枝さんが憤慨したのは言うまでもありません。幸枝さんはすぐに由香さんに会いに行き、必死に別れるよう説得しました。
母親の涙ながらの訴うったえに、由香さんもやっと目を覚ましたのか、「ごめんなさい、お母さん」と、その場に泣き崩くずれました。号ごう泣きゅうして抱だ き合う2人。すでに元の母子に戻っていました。

《モテる理由は愛情表現》

 思えば、日本は少子高齢化が進み、結婚や子育てについて、社会全体でに考えていかなければならない局面を迎えています。
最近、東京都議会で「結婚すればどうなんだ」といった「セクハラやじ」が問題になりましたが、あれは論外でしょう。
それはさておき、日頃の調査を振り返ると、なぜこんなチャラチャラした男性がモテるのか、逆に、なぜこんな誠実な男性が結婚できないのかと、不思議に思うことは少なくありません。
今回遭遇した案件は、それを如実に物語っている気がします。つまり、モテる男性というのは、女性に対する愛情表現が、ウソかマコトかはさておき、豊かなのです。
先の陽一さんのようになれとは言いませんが、草食系男子が増えているといわれるなか、世の男性には、もっと女性に対し積極的であってほしいものです。
そして、女性には、愛情表現の真偽を見分ける力を見につけてもらいたいとも思うのです。

(登場人物は調査結果を素材にした創作です)